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郷土の味を守る若き観光協会職員 高知・北川村

高知県内各地に受け継がれている郷土料理の中には食習慣の変化や過疎高齢化で失われるかもしれないものがあります。北川村では観光協会の20代女性職員が中心となって田舎寿司の伝承会を立ち上げ、地元の高齢女性から作り方を学んでいます。実はこの女性、意外な一面を持っていました。

山道を歩き、林の奥に目をこらす一人の女性。北川村観光協会の職員橋本亜衣里さん(22)です。実は狩猟免許を持つハンターです。出勤前に毎朝、仕掛けた罠をチェックするのが日課です。

私たち一般人には到底分からない、動物が活動したわずかな痕跡。毎日、山に入る橋本さんの眼力はかなり鍛えられていて痕跡を見逃しません。

少しでも食害を防ぐ手助けになればと地元の山猟師たちに教えを乞いながら続けるハンターとしての活動は観光協会の職員としてでなく、あくまで個人としてです。

北川村観光協会はモネの庭マルモッタンの事務所の中にあります。モネの庭は村で重要な観光拠点。同じオフィスで仕事をする方が何かと効率的です。

橋本さんは安芸市出身。実家から北川村に通っています。3年前、職員がなかなか定着しないことに悩んでいた北川村観光協会の会長が伝手を頼りに人材を探す中で橋本さんに声をかけました。

この日は橋本さんが立ち上げた田舎寿司伝承会の勉強会の日です。勉強会が行われる集会所に車を走らせる途中、師匠の山猟師から連絡が入りました。

畑に猪が出たという連絡。現場に向かいたい気持ちが湧き起こりますが、田舎寿司の勉強会も大切な取り組みです。ひとまず会場に向かいます。

ゆの酢100パーセントで作る北川村の田舎寿司は具材の切り方や味付けに伝統の技があり、レシピを知るだけではおいしくつくることは難しい料理です。これこそ長年の知恵の結晶。絶やしてしまうことはもったいないという橋本さんの思いに賛同した地元の女性たちが勉強会に参加しています。

みんなから師匠と呼ばれているこちらの女性。中野和美さんです。村で田舎寿司といえばこの人という存在です。中野さんも以前、北川村の田舎寿司を売り出すべく地元の婦人グループで活動していましたが、メンバーの高齢化が進みグループは5年前に解散してしまいました。しかし今、村の伝統料理を継承しようという勉強会は活気に満ちています。とはいえ、下準備からして難しいという田舎寿司作り。まだまだ道のりは遠いようです。

職人が指先の感覚を養っていくように、田舎寿司作りは細かなレシピよりもひたすら実践を重ねていく方がいいようです。こうしてできた北川村の田舎寿司。見た目もあざやかで美しい出来栄えです。この日は村の伝統を受け継いでいくことになる子どもたちの姿も。みんな、村の田舎寿司は大好きです。

自分で培ってきたものを伝える相手ができたことに中野さんはホッと胸を撫で下ろしています。

勉強会を終え、午前中、猪が現れたというゆず畑に向かいます。現場には橋本さんが狩猟の師とあおぐ田所さんが待っていました。

田所さん自身もゆず農家。畑の持ち主の心配はよくわかります。すぐに仲間と猟犬を連れて山に入りました。結果、三頭の猪に遭遇。猟犬に追い回された猪は数日は出てこないだろうと言いますが、確証はありません。しかし放置しておくと再びこの畑にやって来ることは確実です。

観光協会の職員として村の食文化を守り、ハンターとして村の田畑を守る、橋本さんの大切なものを守りつなげていく活動はこれからも続きます。