東日本大震災からまもなく10年。からふるでは、「つなぐ、つながる」と題し、この10年の被災地の移り変わりと、県内の防災についてシリーズでお伝えしています。続いては避難所での食生活について学ぶ学生たちの取り組みです。突然やってくる災害、愛する家族を失った悲しみにくれているかもしれません。そのような状況の中で生きていくためにつなぐ「食」について考えます。
2011年3月。岩手県大槌町の避難所には、炊き出しをする女性たちの姿がありました。
「家族の遺体があがりましたけどみんな同じですからね。泣いてばかりもいられないのでがんばってます」
突然の被災。家族を亡くした悲しみに暮れる中、生きていくために、人々は食をつないでいました。
震災から3か月後、あるチームが被災地に入ります。「日本栄養士会災害支援チーム」=通称「JDAーDAT」。東日本大震災を機に発足し、被災者の栄養管理や食生活を支援する専門チームです。高知県立大学健康栄養学部の講師、島田郁子さんも、メンバーの一員として岩手県に入りました。被災者が避難所から仮設住宅に移り始めた時期でしたが、流通は道路の寸断で滞ったまま。弁当の支給や炊き出しをしている状態だったといいます。
「自分が選べないお弁当を毎日食べるのは栄養的にも、疾患を抱えている人にも難しいものがある。食事のコントロールが難しいと感じた。」(県立大学 島田郁子講師)
健康状態を聞き取り、限られた食材で炊き出しをする中、命をつなぐための食の重要性を痛感したといいます。
「生活がぶちっと切れてしまうような状態の時でも私たちは食べていかないといけないし、飲み物も飲まないといけない。管理栄養士になっていれば自分がなにを用意すべきなのか、アドバイスすべきことは何なのか、そういったことを考えるきっかけにしてほしくて実習をしている」(島田講師)
島田さんはいま、管理栄養士を目指す学生たちに災害時の食について考える授業を行っています。この日は3年生4人が、配慮が必要な人を対象にした食事づくりに挑戦しました。食材は家庭に常備されていそうな缶詰めや乾物です。
こちらの学生が挑戦したのは離乳食です。生後9~11か月の子どもを対象にしました。
「実際に子どもがいる人で被災した場合に離乳食ってどうするんだろうという不安があると思うので作ってみることで考えたいと思った。」(島村千香子さん)
1食づつポリ袋に入れ、ひとつの鍋で加熱することで同時に複数の調理ができる「パッククッキング」を使い、朝・昼・夜の3食、1日分の献立を作りました。まだ噛む力が弱い子どもでも食べられるよう、食材を柔らかくすることに気を配り、ご飯は全粥に。パスタに入れるグリンピースは、薄皮を取って食べやすくしました。
「水をたくさん使えないだろうなと考えてパッククッキング、1つで収まるもので考えた方が実際に応用しやすいと思った。」(島村千香子さん)
一方、こちらの学生が作っているのは…
「いまはファラフェルに衣を付けています。菜食(ベジタリアン)の人と、アレルギー対応にもなっています」(隈本由夏さん)
中東の料理「ファラフェル」。缶詰のひよこ豆を使用し、カレー粉で味を付けました。缶詰のトマトと、常温で保存できるミックスビーンズを使ったトマトソースソースパスタと合わせて、ベジタリアンや、小麦、卵のアレルギーがある人でも安心して食べられる一品です。
「気を付けたことはなるべくタンパク質と、災害時は便秘になりやすいので食物繊維をしっかり取れるように。緊張状態が続くとご飯が食べられなくなっちゃうのでそうならないようにおいしいごはんを作れたらなって思います。」(隈本由夏さん)
ほかにも、妊婦さんを対象にビタミンBやミネラルを補うため、サバの缶詰と麦を使った献立や、腎臓病の人を対象に高野豆腐と春雨を使い、食塩やタンパク質を減らしたメニューが完成しました。
4人でおよそ1時間かけて作った避難所での食事。それぞれ課題もありました。
「油が多すぎるので洗い物が大変かなと思う」
「たとえばこれを平たく小判状にすると割と早く火が通り早く仕上がる。早くできるということはエネルギーを節約できる」
「途中でお湯が沸いてまわりに飛び散ったので小さい子どもが周りにいたら危ないので火加減を調節しないといけないと思いました」
「安全性を気を付けてもらえたら」
「食は命をつなぐもの」。そう話す島田さんは、学生たちに、被災地での経験を伝え続けています。
「食べ物を考えて提供できる力は栄養士、管理栄養士とっても大事。お手伝いできる存在でありたいし心と体をつなぐ非常に重要なものが食事だと思う。」(島田講師)
「普段からそれぞれの患者さんに対応できる献立を考えていける管理栄養士になりたい」(西村麻矢さん)
「日本に住んでいる以上、災害は必ず付きまとうと思う。幼稚園にしても子どもたちのアレルギーに対応したり、病院であればいろんな患者さんがいるので、常日頃からもしものことを考えて対応していける管理栄養士になれたら。」(青木香織さん)